作成者:日本女医会会長 小田 泰子(小田眼科)
加齢黄斑変性症とは
加齢黄斑変性症は、諸外国では以前から高齢者の中途失明の主要な原因の一つといわれてきました。日本でも患者数が増加し、今や、65歳以上の失明や視力低下の主要原因となりました。加齢黄斑変性症は『滲出型』と『萎縮型』の2つのタイプに分類されます。眼球内の脈絡膜という膜の中に新生血管という「弱々しい血管」が生じる『滲出型』は進行が早く、適切な治療をほどこさないと視力が急速に低下し、失明の危険が非常に高いことが知られています。『滲出型』は、最近患者の増加が著しく、1987年に7500人だった患者数が1993年には1万4400人となり、古い統計ですが、2008年には5万2000人と推定されております。加齢黄斑変性症に罹患しますと、物がゆがんで見え、視野の中心が欠けるようになります。周辺の視野は保たれるので移動には困難を感じることはありませんが、文字を読むとかテレビを見るなどの日常生活が不便になり、生活の質(QOL)を著しく低下することになります。高齢化や食生活の欧米化との関連が言われており、「社会的失明」とも呼ばれます。
「ルセンティス」登場
滲出型加齢黄斑変性症に有効な薬剤として、「ルセンティス」(一般名:ラニビズマブ)が登場しました。「ルセンティス」は、血管内皮増殖因子(VEGF)の作用を抑制し、新生血管の発生と進展を抑制する遺伝子組換え薬物です。「ルセンティス」は視力改善効果が確認された世界初の薬剤で、今日多くの国で承認されています。日本でも2009年3月から使用されています。「ルセンティス」は直接、眼の中の硝子体の中に注入して治療します。副作用は、眼圧上昇、視力低下、眼痛、網膜出血、一過性視力障害、硝子体剥離などとともに、全身の副作用として脳卒中が報告されています。早期診断・早期治療が大事な加齢黄斑変性症ですが、「ルセンティス」の登場で、加齢黄斑変性症に対する治療の幅が広がり、今後眼科医療が大きく進歩することが期待されます。
主要文献
Rosenfeld PJ, et al. Ranibizumab for neovascular age-related macular degeneration. N Engl J Med 355(14):1419-1431, 2006
Brown DM, et al. Ranibizumab versus verteporfin for neovascular age-related macular degeneration. N Engl J Med 355(14):1432-1444, 2006
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