「白血病性幹細胞の研究と2度の研究助成受賞」
白血病の治療成績向上を目指して
私は昭和47年、全身疾患を診たいと思って東京女子医大の内科に入局した。当時は総合内科であったが間もなく専門分野別に細分化されることになり、学生のときから行っていた研究、移植免疫に近い領域をと考え血液学を専攻することにした。血液内科の専任准教授として赴任された宮崎保先生、その後任として着任された溝口秀昭先生の御指導の下で当時確立されたばかりの白血病コロニー法を用いて白血病細胞の増殖や分化に関する研究を始めた。この培養法を用いて白血病細胞の各種抗がん薬に対する感受性の検討や成熟顆粒球の白血病コロニーに及ぼす影響などの研究を行い、昭和56年、日本女医会学術研究助成をいただいたが、これは私にとって大いに励みになった。その後トロント大学、オンタリオ癌研究所のMcCullogh先生の下に留学する機会を得たが、研究の内容ばかりでなく研究に対する姿勢にも学ぶところが多かった。
昭和59年に帰国したがその頃、造血に関与する種々のサイトカインが分離同定されたことで、これらサイトカインの白血病細胞に対する影響についての情報が求められることになった。そこで種々の手法を使って顆粒球コロニー刺激因子など各種造血因子の白血病細胞の増殖や分化に及ぼす影響について調べ、その結果を幾つかの論文として発表し、再度、日本女医会学術研究助成をいただいた。研究助成の受賞はその研究の意義を認めていただいたことを意味するものと考えられ一層の励みになった。その後も引き続き、白血病に関する研究に従事し、現在は急性白血病の抗がん薬に対する薬剤耐性に関する研究を行っている。
抗がん薬に対する耐性機序には色々あるが、その中のいくつかが重なって強い耐性をもたらすものと考えられている。私達はその中の一つであるP糖蛋白の発現について、急性白血病細胞における研究を行っている。白血病の治療成績は近年非常に良くなっているものの、このP糖蛋白の機能を抑制することができれば抗がん薬に対する薬剤耐性を軽減、さらに克服することも可能になり、白血病の治療成績は一段と向上するものと思われる。
リサーチマインドを忘れずに
臨床に携わる医師が行う研究は、臨床に根ざした身近な疑問から出発する規模の小さいものであるが、研究の結果を書いた論文は多くの臨床医に必要な情報をもたらすものになり、論文を書いた者にとって充分満足感のあるものであった。英語で書いた論文が広く世界中の人に読まれ、論文を通して学会での知り合いも増え新たな交流が生まれた。血液学の領域では、研究の成果が実際の臨床に素早く結びつくことが多く、現在の患者さんは救えなくても何年か後の患者さんの治療には役に立つことも体験した。リサーチマインドをもって患者さんを診療する楽しさを実感したことが、長い間、大学生活を続けられた原動力になっていると思う。
血液内科はかって重症患者の多い領域といわれたが、現在では新しく開発されたいくつもの治療法により治療成績が格段に向上し、治癒する症例も多くなった。その点では大変よい時代に研究に臨床に従事できたと嬉しく思っている。皆さんも是非、リサーチマインドを忘れない医師となり、診療と研究を平行して行える医師として働いて頂きたい。そのことで日常の生活はより多忙になったとしても精神的な充実感と深い満足が得られ、人生が実り多いものになるはずである。研究費を助成する団体の中に、近年特に女性研究者への助成を増やそうとする動きがある。私も研究費申請の審査をしている立場から、是非このチャンスを生かして意欲ある女性研究者が育ってほしいと願っている。
キーワード 血液内科 白血病 薬剤耐性 リサーチマインド